私はスポーツメンタルコーチとして、
アスリートが安心して目標に向けた幸せな競技人生を送るための
心のサポートを行っています。
私はスポーツメンタルコーチになる前、
とある鉄道会社に31年間勤めていました。
会社では新幹線新駅建設予算の担当、車両清掃事務所の所長、関連会社の総務課長を初めとした計15箇所の職場で様々な業務を経験しました。
そんな業務経験を経て、
私が職場で最も大切にするに至ったのは
「人の心の内の想いを理解すること」
でした。
私が担当者の頃、
相手の言うことをその心情を理解しようとせずに、
「自分の考える正しさ」
の視点でしか見られない人が多いことを不満に思っていました。
しかし、当時は私も仕事の成果をあげることに必死でした。
会社の上司や他のメンバーが考える「正しさ」の基準にかなうことを目指し、眠る時間もそこそこに必死になって資料を作成して論理的に隙のない準備をしつつ説明に臨むことを心がけてきました。
その作業は辛く終わりがないものでした。
一人でそんな苦しい状況に悩みながらも、自分が置かれている状況を変える力もなく誰にも相談せずに、あきらめた日々を過ごしてきました。
自分自身はそんな環境に耐えてきました。
しかし自分が上司になった時に決心しました。
部下の正しさを求めるだけでは、部下のやる気は出ないし、成長にもつながらないと。
「会社で正しいことを求めること」はある部分間違っていないと思います。
しかし、圧倒的に軽視されてきた大事な視点があると感じていました。
それは
「誰しも心の中に言いたいことがある」
ということです。
会社内で発生するストレスはコミュニケーション不良が原因の大部分です。
「分かってもらえない」
「言っても、批判される」
「伝えても、意味がない」
自分の職場でもそんな思いが支配していたと思います。
そんな「言いたいことを言えない」諦めに似た雰囲気を変えたいと思い、自分から周囲のメンバーに対してアプローチを始めました。
まずは各自の意見と取組みについて関心を持って丹念に聞きました。
最初は中々口が重かった社員も、徐々に自分の心の中の想いや悩みを話してくれるようになりました。
また全部聞いて「違うな」と思った点は説得ではなく納得するまで丁寧に説明をしました。
そのような取組みの結果、自分の思いを話しても「正しいかどうか」で判断されない安心感が職場の中で徐々に形成されてきました。
そして更に私が大切にしたのは「自分で正しい」と信じて取組んだこと自体は「素晴らしいこと」として賞賛することです。
この取組みにより、メンバーが失敗を恐れなくなり仕事に積極的にチャレンジする風土が定着しました。
お互いに信頼感を持って協力するという雰囲気が日に日に満ちてきて、メンバーが活き活きと働く職場になってきました。
「スポーツ」への思いからスポーツメンタルコーチへ
そんな明るい職場が実現した一方で、自分の中にはあるくすぶった感情がありました。
それは、自分の中に眠る「スポーツ」への思いでした。
元々、私はスポーツ観戦が物凄く好きな父親のもとに生まれ育ちました。
そんな父親や兄弟との家での話題の中心は常にスポーツでした。
自分自身も幼い頃から競技場に足を運び、スポーツの素晴しさに感動しつつ成長してきました。
大学ではスポーツ新聞部に所属し、運動部のスポーツ選手の取材に明け暮れる日々を過ごしていました。
そして、そんなスポーツが好きであったのにスポーツ関係の仕事に就かなかったことが自分の中でずっと引っかかっていました。
就職当時を振り返ると、スポーツ関係の職業で自分が活かせて、心から追求したいと思えるしっくりくるものがなかったのが現実でした。
そして、就職してからも休みを中心にひたすら何かを探すがごとく、ラグビー、野球を中心にスポーツ観戦を続けていました。
私をここまでスポーツに惹きつけられたものは、今思うと選手ひとりひとりやチームがその背後に持つ物語でした。
それぞれの選手が育った環境。
そこで出会った競技。
そして、スポーツの成功や挫折を通じて形成された思いなど。
ひとりひとりの選手にはそれぞれの物語があります。
私は競技場で選手のプレーを観つつ、
背後に今日まで至るその選手の人生を観ていました。
これまでの選手の物語に寄り添い、
この先更にもっともっと輝く物語となるサポートをしたい。
職場でひとりひとりと寄り添い、ひとりひとりが目を輝かせて働くようになってからその思いは一層強くなってきました。
そんなある時、スポーツメンタルコーチという存在を知り、自分の心に衝撃が走りました。
「スポーツ選手に貢献でき、気持ちの面を支える仕事」という役割を知り、会社の経験が活かせてスポーツに貢献できる心からやりたい仕事とやっと出会った気がしました。
そんな運命の出会いから、選手をサポートするために必要な学びと経験を通じて、念願のプロスポーツメンタルコーチとなりました。
私が大切にすること
競技を続けている中で、
努力はしているつもりなのに、成果がでない。
練習ではできることが本番の試合ではできない。
失敗を恐れて思い切ったプレーができない。
そんな悩みを抱えている選手は多いです。
競技における結果を左右するのは、「競技スキル」と同様に「メンタル」のあり方です。
メンタル面を整えることはとても重要なことです。
しかし、メンタル面で課題があると思った時、本人自身も課題の真の正体が分かり難いことがあります。
そして、メンタル面の真の課題を解決せずに競技を続けた先には、成果が出ずに競技を辞めたくなることや、やり通しても良い思い出がなく終わるということに繋がる恐れもあります。
そして、メンタルは自分の内面の事なので、誰にでも話せないところが困る点です。
よくメンタルは「強い」「弱い」で論じられます。
そして世間ではメンタルが強いと言われる選手が賞賛されます。
メンタルが弱いということは「恥ずかしいこと」で指導者や先輩に知られることが恥ずかしく、ましてや相談などできないと考える選手がほとんどです。
そのためメンタルに対する課題をひとりで抱え込んでしまうのです。
しかし、メンタルは「強い」「弱い」というとらえ方以上に「上手く向かい合う」という考え方が大事です。
そしてメンタルと安心して上手く向かい合うにはコツがあるのです。
以前、とあるラグビーアカデミーの夏合宿で小学校高学年向けにセミナーを実施したときのことです。
セミナー後に、参加したひとりの小学生がモジモジしながら、私のところに来ました。
彼は真剣な眼差しで「相談したいことが・・・」と小さな声で呟きました。
二人っきりで話しやすい雰囲気を整え、彼の相談を聞きました。
彼は口を開きました。
「僕オールブラックスになりたいのです」
オールブラックスはニュージーランド代表チームで、世界の強豪中の強豪です。
すごく大きな夢でした。そしてすごく素晴らしい夢だと思いました。
そして、詳しく話を聞くとオールブラックスを目指す彼の本当の悩みは
「タックルへの恐怖心」でした。
大きな相手に跳ね飛ばされてしまう恐怖心があるとのことでした。
そこで、彼に
「今までタックルがうまくいったことがある?」と聞くと
「ある」とのことでした。
次に「練習でコーチが教えてくれたタックルの時注意することは覚えている?」
と聞くと「覚えている」とのことでした。
彼の試合中の心の中は「大きな相手にタックルして跳ね飛ばされることへの恐怖感が心を支配し、練習で習ったタックルのコツが飛んでしまう」
という状況でした。
対話形式で話し続けた結果、彼の中で
「1度でもタックルが成功したことがあるならば、うまくできる技量はある」
「試合ではまだ起きていない先の心配ではなく、その時タックルで気をつける点に集中することが重要」
という気づきが生まれました。
彼は「オールブラックス」に入りたいことを真剣に相談できる大人がいなかったのです。
そして「タックルに入るのが怖い」ことも。
自分がそうであったように一人で悩みを抱え込んでいると、
出口が見えずに混乱し、自暴自棄になってしまいます。
だから、自分の内面を安心して話せる場所が必要なのです。
否定されずに聞いてもらえる場所が必要なのです。
一緒に内面をみつめて、この先を一緒に考えていく場所が必要なのです。
話し終わった彼の顔は、来た時と比べて格段にスッキリと晴れやかであったのが印象的でした。
その後日談ですが、
彼は、その後意識を変えてラグビーに取組んだ結果、見事タックルへの恐怖心を克服しました。
そして、タックルの課題を克服したことが自信となり、ラグビーにおいて更に前向きにプレーするようになりました。
そして、その彼のラグビーに対する取組みの真摯さとオールブラックスになりたいという思いの強さが
親御さんの心を動かしました。
なんと、彼は中学からニュージーランドにラグビー留学することが決まりました。
小学生の彼は気づきから目標達成に向けた道を切り開いたのです。
このように、とらえ方ひとつで、運命は変わることがあります。
こころから安心して自分自身と向かい合うことで本当の自分と出会うことができます。
私には一人で悩んでいた過去があります。
だから抱え込んでいる人たちの気持ちが痛いほど分かります。
私には一人で抱え込んでいた人たちと、とことん語り合い続けた過去があります。
だから、安心できる場所を作り続けています。
その経験を、今は自分に生きる意味を与えてくれたスポーツ選手のために活かし
続けています。
これからもひとりひとりの選手が歩んできたストーリーを大切に
輝ける未来を切り拓いていきたいと思います。
ひとりでも多くの選手が自分らしく活躍できるように…。
競技を通じて、更には人として幸せな人生を歩んでもらえるように…。